肩こり

ある調査では、サラリーマンの持病の中で、水虫に次いで多いのは肩こりだといわれています。その昔、四つ足で野山をかけめぐっていた人類の祖先が、二本足で立つようになったときから、人間の体には様々な負担がかかってきました。

第一は、重さ4㎏もある頭を細い首で支えなければならなくなったことであります。直立位となってからの人類の首は、頭をのせたまま。四つ足獣より自由に、しかも広い範囲に動かせるようになりました。だからといえ、後ろ首から肩にかけてに筋肉の構造は変わっていません。

第二は、前足、つまり腕の発達であります。人類が万物の霊長と呼ばれるのは、腕を巧みに使って道具を発明したからでしょう。ところが、肩はそのために左右に体重の約8%もある重い腕をぶら下げることになり、さらに肩の筋肉は腕のデリケートな運動に合わせて、こまめに収縮や弛緩を繰り返す必要が生じました。

第三は、肩甲骨の動きが複雑になったことであります。腕の発達によって、肩関節の動きを左右する肩甲骨も複雑に動き、その周囲の筋肉が頻繁に使われるようになりました。

第四は、背骨でバランスをとって直立位を保っていることであります。おかげで背骨の両側の筋肉は発達したものの、上体を起こしているという重労働に勝てず、疲れやすい状態になっていることです。

二本足で生活するヒトには、首や肩、背中に常に負担をかけ、何らかの要因で肩こりが生じる宿命を持っているといえます。肩こりの原因は実に多くあります。腕や肩の使い過ぎをはじめ、根をつめ作業をした、不自然な姿勢を長時間続けた、眼を使い過ぎた、精神的なストレスなどであります。また、虫歯、風邪、高血圧症、冷え症、胃炎、肝臓障害などでも肩こりは起こります。

いずれにしても、肩こりの仕組みは一つで、筋肉が緊張して収縮し、その部分の新陳代謝が悪くなって、体内の老廃物が蓄積されることで、血液やリンパ液の循環も滞り、更に筋肉は緊張度が増すという悪循環が起こることです。

肩こりを治すには、根本の原因を取り除くことも必要ですが、どこの筋肉がこっているかを知り、その部分の血行をよくすることが先決です。

頻繁に肩こりが起こる場所を挙げます。

後ろ首は、こりを自覚しやすい場所であります。首の付け根が硬いと感じたときは、たいてい皮膚の表面に最も近い僧帽筋に緊張が出ています。この筋肉は、後ろ髪の生え際あたりから出て、頚椎の両側を通り、肩から肩峰まで達しています。これは顔を上げて、両肩を後ろにそらせると、大きく三角に浮き上がってくる筋肉です。

後ろ首から両肩にかけてこっているときには、肩甲挙筋が緊張しているはずであります。この筋肉は、僧帽筋の下を通って肩甲骨の内側に達しています。顔を斜め下に向けて首をねじるようにしますと、僧帽筋と交差する状態でこの筋肉が浮かび上がります。

前かがみの姿勢を続けたり、立ちっぱなしでいたりしたあとは、脊柱起立筋が緊張します。この筋肉は僧帽筋の始まる場所から出て、その下を通り、背骨に沿って腰まで走っています。両手を高く上げ、反り返りますと背骨の両側に細長く浮き彫りになるのがこの筋肉です。

細かい作業をした場合は、肩甲骨下筋が緊張します。この筋肉は肩甲骨の前側にある筋肉ですが、肩甲骨の内側のへりに沿って肩甲骨下端に達しています。両腕を肩の高さに上げて前にならえをしますと、この筋肉がはっきり浮き出てきます。

以上のようにして、どの筋肉がこっているのかを調べる、治療のときのツボの選択に役立てます。

-鍼灸治療編

◆主要なツボ

肩こりに使われるツボは非常に多いですが、主なものは

肩  「肩井」
背中 「曲垣」、「大椎」、「厥陰兪」、「膈兪」、「膏肓」、「膈関」
首  「天柱」、「風池」

などがあります。

◆治療法

僧帽筋のコリには、「肩井」が特効穴であります。肩をすくめるとあらわれる太い筋の上で、押さえると後ろ首に響きますので、割合簡単に探せます。

肩甲挙筋のコリには、「曲垣」を使います。きちんと正座をして肩の後ろに触れ、肩先から背骨に向かって斜め下に走る肩甲棘という骨を探します。その内側の先から指1本上がったところで、上下にもむと軽く響く場所が「曲垣」です。

脊柱起立筋のコリには、「大椎」、「厥陰兪」、「膈兪」を使います。「大椎」は督脈という流れに属するツボで、体の背面の症状は督脈のツボでとることが原則で、特に「大椎」は背筋のこわばる症状には欠かせません。「厥陰兪」は全身の血行をよくし、コッた筋肉をほぐす効果があります。

肩甲下筋のコリには、「膏肓」と「膈関」を使います。「膏肓」は肩から背中、ひじにかけての痛みがあるときには不可欠なツボです。「膈関」はちょうど胸と腹を隔てたところにある関所という意味で、このあたりのコリや、胸のつっかえる症状には効果があるツボです。

上記の筋肉のコリにそれぞれのツボに対して、強めのマッサージ、指圧、あるいは鍼灸治療を加えますと、筋肉がほぐれて肩の周囲が楽になります。

そのあと、「天柱」と「風池」に垂直圧を加えます。「天柱」と「風池」は、首のコリと頭痛には必須のツボであります。

〇神経質でいつも体がだるく肩こりが癖になっている人には

「天柱」、「大序」、「肩井」、「曲垣」に灸をします。米粒大のもぐさに1カ所3壮ずつすえると効果的です。

〇無力体質で年中胃腸が悪く、気分がすぐれず肩がこる人には

「天柱」、「大序」、「肩井」、「曲垣」に合わせて、背中の「肝兪」、「脾兪」、「胃兪」、お腹の「中脘」、「天枢」を刺激します。お腹のツボには薄切りのショウガをのせて、1ヶ所3壮ずつ温灸をするのも効果的です。家庭では、乾布摩擦や冷水摩擦をするとさらにいいでしょう。

▽冷湿布による治療

頑固な肩こりには、血管の二次反応を逆手にとって、冷湿布を使うと予想を超える効果があることもあります。小さな氷の塊をポリ袋に入れて何かで包み、コリの最もひどいところに押しつけるように冷やします。この場合は肩全体ではなく、ポイントとして狙って冷やします。

2~3分冷やしてから氷をはずすと、いったんは強く収縮した血管が、その二次反応として拡張し始め血行がよくなり、肩こりが楽になります。