不眠症

睡眠が健康を、ひいては生命を保つうえで何よりも重要な営みであることは、古代アリストテレスの時代から現代に至る数多くの研究や実験が証明しています。

ところが世の中には、寝るほどの楽を知らないどころか、痛切に眠りを求めながら、それができない不眠症の人が多くいらっしゃいます。

不眠の原因には、大まかに三つの種類があります。

一つは、熱や痛みがあったり、体の異常があったりするなどの不眠であります。これは言うまでもなく、原因になっている熱や痛みをとればいいのです。

二つ目は、ベットが変わったり、騒音があったり、海外旅行で時差が生じたりしたときに起こる機会性不眠と呼ばれるもので、治療の必要のないそのとき限りの不眠であります。

三つ目は、体の具合も悪くなく、原因らしい原因の見当がない神経性不眠といわれるものであります。これには、本当に眠れない不眠と、実際には眠っているのに本人は眠れないと思い込んでいる偽不眠とがあります。そして、眠れないわけではないが、どうも寝つきが悪いという人もいて、このような人が神経性不眠には多いようであります。

この三つの中で一番多いのは最後の神経性不眠で、このような場合に対してツボ刺激療法は効果を示します。

―鍼灸治療編

◆主要なツボ

首  「天柱
背中 「膈兪」、「膈関」、「至陽」、「肝兪
腰  「腎兪
腹  「巨闕」、「期門」、「大巨」、「関元
手  「合谷
足  「三陰交」、「湧泉
など

◆治療法

不眠に悩まされる人に共通してみられる症状は、首筋から背骨の両側にかけて縦に伸びる筋肉が硬くこっていることであります。この筋肉を脊柱起立筋といい、直立姿勢を保つのに重要な筋肉であります。この筋肉がこって硬くなると、正しい姿勢が保てなくなるばかりではなく、そのそばを連なる交感神経幹節を圧迫することにもなります。いうならば、交感神経のメインストリートを圧迫しますので、体は四六時中活動状態に置かれることになり、眠りたいと思っても、安眠ができない状態になります。

そこで、起立筋をゆるめるために、首から背中、腰と施術を行います。特に「膈兪」は重要なツボで、東洋医学的にいいますと、「膈兪」は胸部内臓と腹部内臓の境目にあり、このツボを刺激しますと、血流の循環が促進され、交感神経の緊張が解きほぐされます。

次いで腹部を施術します。お腹のツボの中で「巨闕」は、心臓の働きをよくして全身の血液の巡りを調整しますので、不眠に有効なツボです。なお、「巨闕」と「大巨」は表裏の位置とされていますので、不眠症を取り除くのに合わせて使うことが重要になります。

その他に、神経の興奮を鎮めるために「百会」を頭の芯に響くように施術します。足の裏の「湧泉」も同様の目的で使用します。

足が冷えて眠れない人には「築賓」、「三陰交」、「太谿」など、血圧が高くて眠られない人は「合谷」を処置します。

不眠症には、鍼灸治療が非常によく効く病気の一つだとされています。上記のツボなどを組み合わせて、症状や患者さんの体格に合わせて、鍼治療なら3~5㎜の深さで、長く刺したり、すぐに抜いたり、前後左右に動かしたりします。そして、灸を併用すると、さらに効果が上がります。半米粒大から米粒大のもぐさを、1ヶ所に3~5壮位すえます。