吐き気・おう吐

吐き気とおう吐は、非常に多くみられる症状でありますが、一般におう吐といわれるのは、咽頭、喉頭、食道、胃、十二指腸、横隔膜や腹壁の筋肉などが急に収縮して、胃や腸の内容物が口から勢いよく吐き出されることであります。吐き気はその程度が軽いものをいいます。

吐き気はおう吐は防御反応の一種であり、普通は吐き気に続いておう吐が起こります。

吐き気、おう吐の第一の原因は、脳の刺激であります。薬品、体内の毒素、脳の内圧の高まり、精神的なものなどが影響します。脳の刺激には、たばこの吸い過ぎ、酒の飲みすぎなどもあり、薬品の刺激としてモルヒネなどの麻酔が挙げられます。体内の毒素に関係するのは、内分泌腺の病気、糖尿病、つわり、尿毒症などであります。脳の内圧を高める病気は、脳出血、脳腫瘍、脳炎、髄膜炎などがあります。精神的なものとしては、心配や悩み、恐怖、ショック、ノイローゼ、乗り物酔いなどが原因となります。

その他の原因としては、反射的刺激があります。これは胃腸病のときに最も多く、胃炎、胃潰瘍、消化器がんなどで起こります。また、メニエール病などの感覚器系の病気でも起こります。

一般に空腹時の吐き気やおう吐は、慢性胃炎、つわりが多く、食後1~4時間までに起こるのは、胃や十二指腸のがん、食後13~48時間に起こるのは、胃潰瘍、十二指腸腫瘍などが疑われます。そのほか、慢性のすい臓炎、腎炎などでも、初期には吐き気やおう吐があります。

治療は、第一に原因となる病気を明らかにして、その病気を治療することであります。また、有害物の摂取のために起こったおう吐は、生体の防御反応なので、無理におう吐を制御してはいけません。人間の体はというのは、よほどのことでもない限り、自身が持っている自然治癒という能力で、体内の異物を無害なものにしてしまうのであります。吐くのも、その作用の一つであります。

東洋医学では、この自然治癒の方法を「汗吐下和」という用語で説明しています。すなわち、吐く、下す、体に中で中和する、あるいは風邪で熱があるときのように汗とともに体外に出す、という意味であります。

一般には安静と保温が大切で、熱が高く、腹痛が激しければ、専門医の診察と治療が必要であります。

ツボ療法では、全身的な症状と関連のあるツボの組み合わせで、おう吐を抑えていきます。

-鍼灸治療編

◆主要なツボ

背部 「脾兪」、「胃兪
腹部 「中脘」、「天枢」、「巨闕
喉  「気舎
足  「足三里」、「築賓」、「厲兌

などが治療の中心となります。

◆治療法

うつぶせで、「脾兪」、「胃兪」を中心に「膈兪」、「肝兪」、「胆兪」などを加え、背中を刺激します。「脾兪」、「胃兪」は消化器、特に胃の病気で胃腸の消化吸収の悪いときに効果があります。背中の緊張がとれたら、前面の治療を行います。

あおむけで、「気舎」を刺激します。「気舎」があるところは、迷走神経が通っていますが、この神経は脳から首の胸鎖乳突筋を経て、「気舎」の位置を通り、胸から腹部へと通り抜けています。このことより、「気舎」への刺激が迷走神経を刺激して、鈍くなった胃の働きを活発にして、胃痛や吐き気の解消に効能があることが分かります。

次いで、腹部の治療に移ります。「中脘」、「天枢」、「巨闕」などを刺激します。肝臓や胆のうの病気で起こる吐き気やおう吐には、肋骨弓下の「不容」を肋骨弓の内側に向けて、強めに刺激します。

最後に、「足三里」、「築賓」、「厲兌」、「合谷」を刺激します。この中のツボで「厲兌」は、胃経から脾経を通って内臓をわたり、脳に到達しておう吐中枢を制御する働きがあります。

◆メモ

治療をするときは、寒い環境で患者を寝かせると、吐き気が強くなりがちなので、体の保温に十分留意して治療を行います。

また、吐き気やおう吐には鍼灸治療が功を奏します。特に灸は効果的で、上述のツボを選んで施灸するといいでしょう。鍼治療の場合は、「膈兪」、「肝兪」、「脾兪」など脊柱の両側のツボで圧痛点が甚だしいものを選び、施鍼します。次いで、「巨闕」、「中脘」、「期門」などに施鍼します。「足三里」などにも治療を加えます。