慢性甲状腺病

甲状腺病の症状のうち最も多いのは、首が腫れる甲状腺腫であります。これは甲状腺疾患の局所症状の一つですが、甲状腺の腫大は、よほど大きくならない限り自覚されることは少ないです。

そのため、甲状腺病は触診による診断が重視されます。患者を自然の姿勢でまっすぐに椅子に座らせて、患者の正面に座るか、もしくは背後に立って検査します。

まず、首の前面で正中線に気管を、次いで、喉頭結節を触診すれば、その両側で腫れた甲状腺を触知できます。正常ならば、このように触知されることはありません。甲状腺腫であるか否かは、この位置関係のほかに、飲み込み運動によって移動するか否かが決め手となります。動かない場合は、リンパ節の腫脹であることが多いです。

この甲状腺腫は、甲状腺腫の大きさによって二つに分類されます。甲状腺がそのままの形で腫脹するびまん性甲状腺腫と、その一部のみが腫脹する結節性甲状腺腫がそれであります。びまん性にはバセドウ病や慢性甲状腺炎があり、結節性には甲状腺腫や甲状腺がんなどがあります。

これらの甲状腺の病気は医師の診断と治療をもとに管理されるべきものでありますが、慢性化、症状が一応安定した状態になれば治療とともに、生活の中での積極的な健康デザインが必要になります。その意味では、ツボ療法は有意義であります。

対象としては、何となく体がだるくて微熱がとれず、脈拍が速くなったり、動悸がしたり、汗をかきやすく、冬でも暑がる、瘦せてくるなどの症状を持つ、いわゆる甲状腺機能亢進症、代表的な病名はバセドウ病が挙げられます。

この逆の場合の、体に水分がたまって太ったように見える甲状腺機能低下症にも、ツボ療法が適用できます。その他、記憶力の低下をもたらす甲状腺機能障害なども対象になります。

-鍼灸治療編

◆主要なツボ

後ろ首 「天柱
耳裏  「翳風
背部  「大椎」、「心兪」、「肝兪」、「腎兪
首   「人迎」、「天突」、「気舎
腹部  「膻中」、「巨闕」、「中脘」、「肓兪」、「関元
足   「足三里
手   「合谷

などがポイントになります。

◆治療法

うつぶせで、「天柱」、「翳風」を処置します。

その後、背中の「大椎」、「心兪」、「肝兪」さらに、腰の「腎兪」を刺激します。体力を向上させるために腰の「命門」も処置します。

次に、あおむけで首の「人迎」を軽く刺激します。「気舎」、「天突」も刺激します。

さらに、「膻中」、「中脘」、「肓兪」、「関元」を刺激します。

これらの治療は、東洋医学でいう心・肝・腎の機能を正して、循環機能と全身の筋緊張を是正し、あわせて全身のエネルギー循環を調整して、患者の反応を変調させ、安定させることを目的として行うものであります。

仕上げとして、「足三里」、手では「合谷」と「曲池」を刺激しますと、さらに有効になります。

〇汗をかき過ぎる場合は…

バセドウ病の症状の特徴の一つは多汗でありますが、その他、自律神経の失調によって汗が多い人も結構います。

ツボ療法は、頭の機能を整える意味で「百会」、気分を安定させ頭をスッキリさせるために「天柱」、「風池」を刺激します。

また、「肺は皮の合」といって、昔から肺機能は皮膚と関係する、つまり、肺の異常は皮膚に表れるといわれています。その意味から、汗は皮膚から出てくるので、肺機能を整える「肺兪」の処置も必要になります。また、肺の邪気が集まるとされる「中府」のツボも重要で、注意深く刺激します。

加えて、肺の臓と表裏一体の関係である大腸の働きを正常にする「合谷」も刺激しますと、いっそう効果があります。

また、手首の「太淵」は肺の原穴として、肺機能を全体に調節する重要なツボでありますので、ここのツボの処置も忘れないようにします。