鍼灸オタクは早死にする 582

免疫 39

〇胸腺

胸腺は出生後20歳くらいまでは重量を増して30gにまで達し、その後は加齢による退縮がはじまります。胸腺は免疫系の中でも最も進化した免疫臓器で、外来抗原向けのT細胞をつくります。このことは、若い活動が活発なときにこのT細胞を集中してつくっていることを表しています。

胸腺は被膜、皮質、髄質からなりますが、皮膜と髄質は外肺葉上皮成分を含み、皮質が内胚葉上皮成分を含みます。T細胞の分化、成熟のほとんどが全て皮質で起こっています。加齢に伴って胸腺は萎縮しますが、この主要部分である皮質が萎縮しているからであります。

胸腺でつくられるT細胞のもとになる幹細胞はすでに胎生期にここへ移行し、胸腺から前駆T細胞を経て分化、成熟しています。T細胞がT細胞であることのしるしはTCR(T細胞レセプター)をもつこともつことであり、通常のT細胞はヘルパーT細胞(CD4)かキラーT細胞(CD8)を発現しています。

そして、T細胞の分化は次のように起こっています。前駆T細胞→未成熟T細胞→成熟T細胞という順番です。このように、進化レベルの高い胸腺でのT細胞分化は、きわめて不思議な分化、成熟過程を通ります。

一度発現したCD4⁺CD8⁺のステージの細胞は、核の断裂(アポトーシス)を起こし、95%が死滅してしまいます。そして、一部が残りがCD4かCD8を失って成熟します。この死滅によって、自己応答性の禁止クローンが除かれています。これを「負の選択」と呼んでいます。

MHC(主要組織適合抗原)が父親由来のものでも母親由来のものでも、自分が保有しているものはすべて自己と認識します。胸腺では、自己のMHCを認識した細胞のみが選択的に分化していきます。この選択を「生の選択」と呼んでいます。分化の後半部分で起こっていると思われます。

元に戻って、なぜせっかくつくったクローン(禁止クローン)を除くようなことが胸腺で起こるのでしょうか。それは胸腺上皮に発現しているいろいろな自己抗原と禁止クローンが反応を起こし、これが刺激になって死に至るからです。このステージのT細胞は、細胞死を抑制するbcl-2遺伝子を使っておらず、死にやすくなっています。また、TCRやCD4、CD8が一緒になって「MHC+抗原」と反応するので、刺激が入りやすいという両面から特徴が考えられています。

生と負の選択を終えた成熟T細胞は髄質の血管から循環系に入り、リンパ節、脾臓、パイエル板などの定着します。L-セレクチンなどの接着分子が、これらの末梢免疫組織に定着するための分子として使われています。高内皮質細胞をもつ小静脈を経て定着するといわれています。

進化したT細胞は機能がすぐれていて、もし自己応答性があれば生体にとって危険なのですが、負の選択をうけているので心配はありません。また、ストレス、ステロイドホルモン、x線照射で胸腺が急性萎縮するのは、この進化したT細胞をいま使うときではないとして、一気にT細胞の分化、成熟を止める姿なのです。

T細胞の存在が明らかになったのは、1961年のマウスでの新生仔胸腺摘出実験です。生後3日以内に胸腺を摘出すると、リンパ節や白脾髄ができません。そして、免疫不全が起こります。

しかし、生体になってから胸腺を摘出しても、完全にリンパ節や白脾髄が消えるわけではなく、多少萎縮するだけです。つまり、新生児期に胸腺はT細胞を送りはじめ、末梢免疫臓器定着したT細胞はそこで再分裂を繰り返していることが分かります。しかし、その後も末梢に送り続けられています。

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