不妊症の治療

不妊症の治療

〇人工授精

西欧医学での不妊の治療は、不妊の原因を取り除いたり。人工的に受精させたりする医療技術であります。

人工授精は、男性の性液を細いチューブを使って女性の膣や子宮内に注入し、自然な受精を待つ方法です。精液中の精子の数や運動能力に問題がある場合に有効で、数の限られた健康な精子を無事子宮まで送り出すことができます。人工授精では、精子が無事卵管の端まで行きますが、卵と受精できるか保証はありません。子宮に注入したあとは神のみぞ知る領域になります。

〇体外受精・顕微授精・凍結融解胚移植

近年、広く応用されるようになっている不妊治療が、生殖補助医療(Assisted Reproductive Technology:ART)であります。

体外受精と顕微授精、さらにこれらの方法で複数の胚が得られた場合、余剰胚を凍結保存し、凍結後に移植する凍結融解移植などをまとめてARTと呼ばれています。

最近はゼリー状の状態で冷却保存するビリフィケーションと呼ばれる方法が用いられ、妊娠率の向上寄与しています。

体外受精は卵巣から取り出した卵を専用の皿の上に置き、運動性のある精子を加え体外で受精させるという方法であります。この方法では、しっかりと受精が確認されたのち、適当な時期まで育てた胚を子宮に届けます。精子と卵子が出会って受精する場所である卵管に障害がある女性も妊娠の機会が得られます。

体外受精をさらに発展させたものが顕微授精です。その代表的な方法である細胞質内精子注入法は、顕微鏡下で、一つの卵子の細胞質の中に、直接一つの精子を注入するものです。

この方法では、たった一つの健康的な精子と卵子さえあればいいのです。不妊症の女性にとって朗報だったが、正常な精子の数が極端に少ない男性に在っては特にこの方法で自分の遺伝子を残す可能性が広がりました。

治療の際に排卵をうながす薬を使って、場合によっては10個以上の卵子が採取されることがあります。このとき移植されなかった受精卵を液体窒素の中で凍結保存し、以降の周期で移植するのが凍結融解胚移植です。

最近では、卵巣刺激で負荷のかかった卵巣や子宮を休ませる目的で、新鮮な胚一つも移植せずに、全て凍結することも行われています。凍結された胚は、半永久的に保存可能であるといわれています。

女性の年齢の上昇に伴って、染色体異常の卵子の割合は増えますが、その結果、体外受精や顕微授精で妊娠しても流産におちいることも多くなります。日本産婦人科学会の報告によりますと、2017年、体外受精や顕微授精による胚移植を受けた結果、出産に至った確率は30歳は21.9%、35歳は18.9%、40歳は9.3%、45歳では1.0%にまで下がっています。

また、費用については、ARTは医療保険適用外であります。年齢や所得、治療回数などの制限はありますが、助成金制度は設けられています。

ここで注意しなければならないことは、どのような卵巣刺激法を用いるかという点であります。それによっては成功率や費用も変わってきます。一般的な性腺刺激ホルモンを用いたARTの場合、1回の採卵で数個~10数個の卵子が採取され、数個の移植可能の胚が得られます。したがって、1回新鮮胚移植と、1~3回ほどの凍結融解胚移植が可能となり、累積妊娠率は上昇します。

一方、自然周期あるいはそれに準じた方法で採卵を試みた場合、採卵可能な周期は7~8割で、通常1個の卵子しか得られません。したがって、よくても1回の新鮮胚移植あるいは凍結融解胚移植しかできず、結果的に何度も採卵が必要になります。

参考文献・引用・2002年・『人体完全ガイド』改訂第2版・ニュートンプレス