ヒステリーは感情の抑圧が強く、不満が内向し、そのことに自分自身で無意識に耐えきれなくなると、様々な身体症状を訴えるものであります。
半身まひやけいれんが起こったり、目が見えなくなったり、耳が聞こえなくなったり、頭痛、失神など、強い反応が出て、精神病に似た症状を示す場合さえあります。
しかし、体を検査してもその病根は発見されません。ときには、腹や喉に球のようなものがつっかえていると訴える人もいますが、やはり他覚的に異物も腫瘍も認められません。これを〝ヒステリー球〟といいます。
ヒステリーを起こしやすいのは、見栄っ張りで大袈裟な気性の人だといわれています。実際、患者さんは他人の見ているところでは病状を過大に訴えて、感情的、演出的であり、他人から見れば仮病ではないかと思われるほどであります。しかし、実際は患者さん自身もその症状で苦しんでいるのであります。したがって、ヒステリーは神経症の中の一つとして分類されるのが普通であります。
ヒステリーの治療の基本は、精神療法であります。それには精神分析療法、森田療法、催眠療法、自律訓練法、短時間面接などいろいろあります。合わせて向精神薬を補助目的に使用します。
東洋医学の対応の仕方は、何よりも体調を整えて、体力を強めることを治療の眼目としています。東洋医学では人の精神活動を支配しているのは、頭ではなく臓腑だと考えています。臓腑は胸と腹にあり、ツボ療法の狙いもここにあります。
いろいろなヒステリー症状の場合、それに伴っている合併症状として、むくんだり冷えたりする循環器系の症候群と、食欲不振や便通不整などの消化器系の症状が最もあります。つまり、神経のイライラはこのような症状となって体のの不調も訴えてくるわけであります。そのため、このような症状をやわらげるためによく効く、背中のツボも重要になってきます。
-鍼灸治療編
◆主要なツボ
背部 「肩井」、「厥陰兪」、「心兪」、「膈兪」、「胃兪」
腰部 「腎兪」
胸 「膻中」、「鳩尾」
腹 「関元」、「大巨」
手首 「神門」、
足 「足三里」、「湧泉」
などが中心となります。
◆治療法
「厥陰兪」は心包経の兪穴で、自然界にある全ての邪気はこのツボからからだの中に入り、臓腑をおかして病を起こすといわれています。これらの邪気はやがて募穴に集まります。したがって、兪穴と募穴は密接な関係にあり、兪穴と募穴と同時に活用することによって、臓腑の異常が発見されて、治療効果をあげることができます。
「厥陰兪」に対する募穴は胸の「膻中」であり、心経の兪穴である「心兪」の募穴は腹部の「巨闕」であり、胃経のの兪穴である「胃兪」の募穴は腹部の「中脘」である、という具合になっています。
ヒステリー症状の場合、「膻中」には圧痛がある場合が多いです。
「鳩尾」、「中脘」は消化器系の調子を整えるのに重要であり、便秘気味の人や、生理痛などの人は、とくに「大巨」を使用します。
最後に、精神不安、イライラをとり除くために頭の「百会」、気力をつけて、頭をすっきりさせるために手の「神門」、足の「足三里」、「三陰交」、足底の「湧泉」を刺激します。
灸治療の場合は、米粒大または半米粒大のもぐさを1ヵ所3~5壮すえます。5日間続けて2日休む、というローテーションで行います。
〝ヒステリー球〟には、「膻中」の灸と、「人迎」、「天突」の鍼がよく効きます。
◆メモ
気分がイライラしたときは、とりあえず、自分の手のひらのほぼ中央で、やや親指寄りの辺りを反対の手の親指でよくもみほぐすと、イライラした気持ちが徐々におさまってきます。