下痢

便が形を失って、水様になるのが下痢です。下痢は普通、大腸の上部と下部で行われる水分吸収が悪いために起こります。

これには二つの原因があり、一つは腸の働きが高まって、内容物が急速に腸を通過するために水分が吸収される時間がないこと、もう一つは水分を吸収する腸の粘膜付近の働き自体が低下していることであります。いずれにしても、何らかの原因がその陰にあります。

したがって、下痢のときはその原因が食べ過ぎなのか、寝冷えなのか、また精神的なものか、細菌やウィルスの中毒のものなのか、慢性の下痢の特徴である吸収不良症候群か、あるいはガンのような悪性の病気か、要するに医師の治療を必要とする下痢かどうか見極めることが肝要になります。高熱が出たり、お腹の痛みが激しかったり、下痢の回数が極端に多いときは、病気は重いと考えるべきであります。

〇慢性の下痢

―慢性の下痢に潜む病気の見分け方

下痢には、症状のあらわれ方から急性と慢性の2種類あります。慢性の下痢の原因となる病気の見分け方は次の通りであります。まず、過敏性大腸炎、慢性腸炎、腸のアトニー、慢性膵炎などが原因の慢性下痢の場合は、便秘症状が交互します。また、吸収不良症候群は、消化されたものが腸管の壁から栄養分となって吸収される際に、満足いかないために起こる症候群で、体重が著しく減少します。また、ごく一部の慢性型の腸炎では、下痢が腹痛を伴い、次第に瘦せていくものがあります。

胃腸病以外で下痢を起こす病気には、バセドウ病などのホルモン病気、あるいは腎臓のアジソン病やシモンズ病などがあります。腎臓病や心臓病が進行して、尿毒症になった場合も、腸の粘膜がうっ血するために水分の吸収が悪くなり、下痢をおこすことがあります。

その他、生理的な慢性下痢、あるいは心理的な慢性下痢もあります。水分の摂り過ぎ、アルコールの飲みすぎ、冷たいもの飲食などで下痢は起こるし、精神的な悩みやアレルギーが原因であることもあります。

これらの慢性下痢は、下痢止めを与えただけでは決して治りません。適切な作用の薬を投与し、万全な処置をとることが望まれます。

ツボ療法の対象となるのは、特にはっきりとした原因がなく、消化器系の検査をしても異常が検出されないのに、下痢をしやすくて困るという人であります。強いて原因をあげれば、精神的なストレスや不規則な生活など神経症のものが多いです。

こういう下痢を訴える人は、たいがい神経質でやせ型、顔色がすぐれず、仰向けに寝るとお腹が船底のように凹んで硬くなっています。そして、ともすると、へそのあたりで遠い雷のような音がして、下痢が一転して便秘に変わりがちになります。

このような慢性化した下痢は、決して2~3回の治療で治そうとせずに、気長に治療を受けます。性急な効果を期待すると、せかせかした気持ちがまた下痢の原因になってしまうからです。

-鍼灸治療編

◆主要なツボ

背部 「三焦兪」、「胃兪」、「大腸兪」、「小腸兪
腹部 「中脘」、「天枢」、「大巨
手  「合谷
足  「足三里」、「三陰交」、「築賓

などが中心となります。

◆治療法

うつぶせで、背中の「三焦兪」、「胃兪」、「大腸兪」、「小腸兪」を刺激します。背中の緊張もとれます。「三焦兪」は、人間が口にする食べ物をよく消化し、エネルギーとして体内の循環させ、体温をつくる源のツボとされます。「胃兪」、「大腸兪」、「小腸兪」は名前のとおり、胃、大腸、小腸の機能を整えるツボです。とくに「大腸兪」は消化不良の下痢に欠かせません。

慢性下痢には、さらに「腎兪」と首のつけ根の「大椎」にも治療を加えます。「腎兪」は生命力をつけ、「大椎」は胃腸障害を改善させる働きがあります。

次にあおむけで、「中脘」、「天枢」、「大巨」を刺激します。

さらに、足の「足三里」、「三陰交」、「築賓」、手の「曲池」、「合谷」を刺激します。

慢性下痢には灸が非常に効果を示します。上記のツボのほかに、腕の「曲池」、「手三里」、人差し指の「商陽」、足の「梁丘」、「裏内庭」(足の第2趾を折り曲げて、第2趾の腹が足裏についたところ)など灸をすえると一層効果があります。目安としては、一般的な下痢には「大腸兪」を、胃の具合も悪いときは「胃兪」を、瘦せていて元気のない人には「胃兪」、絶えずお腹の痛む人には「天枢」を、下腹が痛み冷える人は「大巨」を加えて「関元」を最優先に施灸します。

灸は1カ所に5~7壮すえます。腹部が冷えていたり、下腹に力が入らないときには、知熱灸を用いてもいいでしょう。

慢性下痢を治療する際は、温熱刺激をすると腸の機能を抑えて、下痢を止める働きがあるので、蒸しタオルやホットパックなど腹部を温めてから治療を行うほうが効果は高まります。

灸の後に粒鍼を貼っておきますと、ツボの刺激が持続して、いっそう効果をもたらします。これは皮膚に直接接触するため、その効果が鍼や灸と同質になるためであります。3日くらいたったら貼る場所を変えます。

鍼治療の場合も、対象とする下痢患者の多くは精神的なストレス、寝冷え、アルコールの飲みすぎ、冷たい飲食物で起こる生理的な下痢と、過敏性大腸などで起こる神経性下痢、あるいは、アレルギー性の下痢であります。慢性下痢では、慢性腸炎、スモンの腹部症状が対象になります。この中では特に神経性下痢に効果を示します。

鍼治療では特に「天枢」、「大腸兪」、「合谷」、「三陰交」などがよく用いられるツボです。また左腹部の「大巨」にあらわれた圧痛点へ皮内鍼をする方法もあります。最高過敏点から順次行います。

◆メモ

治療には直接関係はないですが、親指の根元の膨らんだ部分にある「魚際」は、下痢に非常に関連のあるツボです。下痢をすると、ここに必ず青い血管が浮き出てきます。つまり、「魚際」は大腸の調子を知るバロメーターのツボになります。

◆下痢の家庭療法

・外出先での急な下痢の症状には足三里

外出先で起こる下痢の原因は、食中毒や悪い病気でなければ、冷えからくる場合がほとんどである。手足が冷えたり、お腹が冷えたりして下痢が起こります。

そんな時には「足三里」のツボを強く指圧します。親指で爪先をたてるようにして、指鍼指圧をします。次に、冷たくなっている足の指関節を1本ずつ、手の指で握手してグルグル回すと、血行が盛んになって、冷えがしだいにとれます。

・冷や汗が出るほどの腹痛には、曲池と合谷

会議中や接客中におこる下痢ほど切ないものはありません。冷や汗が出そうな程度であれば、とりあえずの応急処置として曲池という腕のツボを指圧します。腕をお腹の前で曲げて、ゆっくりと(5秒ほどかけて)「曲池」を強めに押し、ゆっくりと離すという方法を数回繰り返します。

つづけて、軽く握りこぶしをつくり、反対側の親指の爪の先で強く「合谷」というツボを指圧します。1回に5秒ほどくらい押し、左右交互に行います。

・風邪の下痢に効く手の指先のツボ

風邪をひいたとき、ウィルスが腸管に入って下痢を起こすことがあります。このような場合は、人差し指の爪の付け根で親指側にある「商陽」を、もう片方の人差し指と親指ではさむようにしてよく指圧するとよいです。このツボは大腸経の始まりのツボになっており、大腸経の中でもとくに腸の調子が悪くて下痢気味のとき、しかも単に下痢をしているというのではなく、風邪をひいて熱のあるとき起こる下痢によく効きます。このツボをつまようじの先や磁気粒で刺激してもよいでしょう。

ちなみに、風邪と腸とは決して無関係ではなく、風邪をひくというのは、えてしてお腹を冷やしていることが多く、風邪のための頭痛や熱と同時に、お腹が渋り、下痢っぽくなることが多いです。こういうときに「商陽」は一石二鳥の効果を発揮します。

各々、あくまでも緊急処置なので、その後はしっかりと処置してください。

◆急性胃腸炎の場合は・・・家庭での対処法

暴飲暴食、腐ったものを食べた、寝ているときにお腹を出して冷やしたなどで起こる急性胃腸炎の場合、

①お腹の下に枕をおいて腹ばいにさせて、背骨とその両側を親指で押しもみした後、親指の側面を使ってしごきもみをします。
②あおむけにさせて、お腹の中心線とへその両側を、皮膚が赤くなるくらいまで押しもみします。
③最後に顔の「印堂」、「攅竹」、「太陽」などを人差し指で押しもみします。

あくまでも応急処置なので、症状緩和後、直ちに医療機関等で診てもらってください。