1.督脉

督脉

督脉とは、人体の後正中線を通る経路で、陽脉を統べる意で「陽脉の海」といわれます。

1)督脉流注

身柱穴より別れて、風門穴(膀胱経)に至ります。手足三陽は大椎穴と交会します。

2)督脉の診察

①陽関穴に圧痛があるときには、骨盤腔内の臓器、または、下肢に障害がある場合が多い。
②命門穴、腎兪穴、三焦兪穴の3穴は、副腎疾患に対して、圧痛、硬結などの反応をよくあらわす。
③身柱~筋縮までの穴は神経症状著しい人に圧痛を表すことが多い。
④神道穴は、肝の熱が心をつくときよく反応をあらわす。
⑤至陽穴は、腎障害のため胃内停水を起こした場合のよく反応をあらわす。
⑥百会穴は神経衰弱の場合に圧痛が強くあらわれ、なかには軽く指頭を触れるだけで首を縮める人もいる。
⑦神経が過敏になり、灸の熱さに耐えられない場合に、まずは百会穴、顖会穴に灸をすえた方がよい。
⑧全ての脊柱棘突起に圧痛をあらわす場合は、何穴を問わずに鍼灸をしてもよい。鍼の深さは脊髄に当たらぬ程度ならば深刺してもよい。

督脉の諸穴は、圧痛をきたすことが極めて多く、脊髄炎や強度の神経衰弱にあっては全体的に圧痛があり、脊髄カリエスその他の諸病は部分的に圧痛があります。

督脉の諸穴は、脳脊髄系統疾患にも有効で、脊柱全体にわたる圧痛が百会穴1穴の灸で鎮静し、場合によっては無痛になることもあります。

痔疾患に、命門穴、腰陽関穴、長強穴なども効果があり、脱肛に際しては、百会穴、脊中穴を用いると効果があります。

その他、督脉は診察上において応用は無限であります。

3)督脉の病症

『素問』骨空論には、督脉に病が生じたら、下腹より気が逆上して、心をつき痛み、体を前後に動かすことが出来なくなりとあります。

女性は、不妊症、小便閉、痔疾、尿失禁、喉が渇きやすくなるなどの症状を発します。また、背中がこわばり反り返り、前屈が出来ず、脊柱が強直し、背中が反り返って弓のようになります。

4)治法

督脉に発した病は督脉をもって治します。その治法は、骨上にある甚だしい痛みがあるものはへその下の陰交穴を処置します。

『十四経発揮』には、

「任と督は一源にして二岐なり、督は会陰に由って背に行き、任は会陰を由って腹に行く。一にして二、二にして一なるもの也」

とあります。

督脉の病を治するには任脉のツボを用いる必要があります。

5)絡穴「長強」虚実の運用

督脈が実するとあおむいたり、うつむいたり出来ないような背中の痛みになり、その場合には長強穴を瀉します。虚するときは頭重があり、その場合には長強穴を補します。

6)督脉に多く用いられる経穴と主治症

顖会:迷走神経の過緊張(激しい嘔吐、胃酸過多症)、嗜眠症、頭重、低血圧症著効。肥厚性鼻炎、蓄膿症にして鼻閉、嗅覚減退、鼻疾患に大切。眼疾患、とくに涙のう炎にて涙が出る症状に著効。鼻、眼疾患の原因による前頭痛、鼻疾患は上星穴と併用して効あり。

百会:脳充血、脳出血、血圧亢進症、脳充血の場合瀉血、脳出血の場合古来は救急の治療として百会穴が用いられ臨床上著効があった。血圧亢進症、灸をすると著しく血圧が下がり、煩わしい耳鳴りやめまいが治る。神経衰弱、神経症に著効。不眠には就寝前に灸。健忘、心煩、驚悸は多くは神経衰弱症状で、この場合には百会穴の圧痛がきわめて強く、指頭触れても首を縮めるものが多い。この場合は灸をする。精神病、テンカン、頭痛、常習頭痛に灸。・鼻疾患、鼻閉、鼻汁が臭いもの。白内障。痔核、脱肛。中枢神経の興奮の鎮静に大切。

風府:風邪、鼻疾患、脳充血、脳出血、血圧亢進などに大切。頭痛、神経衰弱、言語障害。

瘂門:言語障害、嗜眠性脳炎、脳出血、動脈硬化による言語障害。舌の動きの異常に特効。この部の血絡から瀉血すると脳軟化症、高血圧症などに著効。

身柱:神経性諸症状、てんかん、精神疾患、脊髄炎、脳溢血、脳軟化症、顔面麻痺、舞踏病、呼吸器疾患、咽頭炎、百日咳、腺病質、消化不良、下痢、ノイローゼ、疳眼、小児麻痺など、小児病には特効。疲労時このツボに灸をすると疲労が早く回復する。

霊台:脾熱をとる。喘息、気管支炎などの久咳を治する名穴。肋膜炎、肺門炎、結核、肋間神経痛、胸痛、小児喘息に著効。胃疾患、腫物、胃下垂に特効。

至陽:腎熱をとる。急性腎炎、胃疾患、頭重、頭痛、ヒステリーを鎮静。食道狭窄、食欲不振、肋膜炎、肋間神経痛、肺結核気管支炎、肝・脾・膵疾患に大切。

筋縮:筋病、筋肉の弛緩するような麻痺性疾患、神経疾患、肋膜炎、脊椎カリエス、肝疾患。

命門:頭部、腹部の急性疼痛、救急。腎臓炎、腎盂炎、遺尿症などに著効。小児病の一切、腺病児の強壮法、ヘルニアなどには常用される。リウマチ、肝斑、副腎機能低下、腰痛、腰椎カリエス、腹膜炎、下肢麻痺、淋疾、帯下、痔出血、虫垂炎(とくに年少者にもちいてよい)

腰陽関:下肢疾患、腰痛、膀胱疾患、椎間板ヘルニアに著効。腰部、下腹部の冷感には足陽関と併用すると著効。遺尿症、尿意頻数、前立腺炎、淋疾。下肢麻痺、小児麻痺、発病直後であれば効ある。

腰兪:腰部疾患。膀胱疾患、委中とともに下肢の熱をとる。痔疾

大椎:頸項強、鼻血、咽頭病、扁桃腺炎、頭痛、脳溢血、脳膜炎、精神病。